ばねいた!

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【小説】トレバー・ストーンの日記(1)【はよー】

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 今日から日記を書くことにした。ベインが私に日記を書いたらどうかと勧めてきたのだ。しかし正直なところ、なにを書いたらいいのか迷っている。記憶を失った私には、振り返るべき過去も望むべき未来もない。
 ただ、日記を書くのは悪くない考えだ。仮に私が再び蛮族の石斧で頭を一撃されて、記憶を失ったとしても、この日記を読み返せば、少なくとも今日からの自分については把握しておくことができるというわけだ。
 つまり、今日からのことを書いていけばいいわけだ。今日の出来事や、思ったことを。明日への不安や期待なんかも。
 ベインはいいやつだ。頭から血を流して倒れていた私を助けてくれた。恩人だし、それを差し引いても出来た男だ。帝都のアークライト家の、今は使われていない工房を仮の住居として提供してくれた。まさに今、日記を書いている、ここがそうだ。
 彼が、一緒に旅をしないかと誘ってくれたのは、記憶を失って途方に暮れていた私に、当面の目的とやる気を与えてくれた。
 ベインには感謝している。ただ――

――――――――――――――――――――――――――――――――――


 けたたましい音を立てて部屋の入口の扉が内側に弾け飛んだ。
 私は書きかけの日記の上にペンを放り出し、椅子から飛びあがった。そのときすでに、なにか黒い大きな影が眼の前に迫っており、私は突き飛ばされ、壁に叩きつけられていた。
 影そのもののような黒いローブを来た男だった。室内の乏しい灯かりを全て背にして、フードの奥の男の顔は闇で塗りたくられていた。体格が私の倍はある。
 私は男の丸太のような太い腕に胸ぐらを掴まれ、無理やり引き起こされると、凄まじい力で壁に抑えつけられて苦しみにあえいだ。
 男の声を聞いたとき、私は恐怖した。人間の声ではなかった。それは暗い岩窟の奥から響いてくるような、抑揚のない冷たい音の連なりだった。
「アウルゲルミルはどこだ」
「なん、だ? アウル……?」
 背中を乱暴に壁に叩きつけられ、私は息を詰まらせた。もはや私の体はほとんど宙に浮いていた。
「アウルゲルミルはどこだ」
 初めて聞く名だ。それが人なのか物なのかもわからなかった。
 記憶を失う前の私は、それを知っていたのだろうか?
 男の腕がますます強く私の体を圧迫していた。全身の骨の軋む音が聞こえるようだった。この暴漢は私を押し花のように平たくしてでも質問に答えさせようとしているようだが、本の間に挟めるくらい私を小さく潰しても、答えられないものには答えられない。



 私は、それほど重要なことを忘れているのか?
 自分の名前や、生まれ故郷、性格、生き方、愛する人との思い出……他にも、まだ忘れていることがあるというのだろうか?
 思い出せるものなら、全て思い出したい。答えられるものなら、答えている。
 頭の中に白い染みが広がっていくようだった。意識を失うという寸前、私を抑えつけてていた力が不意に消え、私の体は床に投げ出されていた。
 息を吐く間もなく、男は私の口に卵大の石を突っ込むと、吐き出せないよう布で縛った。これでは悲鳴をあげることもできない。
 さらに男は、袋の口を縛るより無造作な手つきで、私の首に縄をかけ、まるで聞き分けのない犬を引きずるようにして、部屋の外に連れ出そうとした。
 息苦しさと、吐き気と、恐怖で、私は半狂乱になって抵抗したが、それは文字通り自分の首を絞めることにしかならなかった。
 男が足を止めると、なんとかまともに呼吸ができる程度に首の縄を緩めることができた。空気の臭いと、背中に突き刺さる小石の感触で、私は自分が工房に面する通りにまで引きずられてきたことを知った。夜の静けさが私の恐怖を助長した。
 地面に這いつくばりながら薄目を開けると、かすむ視界に、馬車の車輪と二頭の馬の脚が見えた。
 それで、どこに連れて行かれる? まだ続きがあるのか。
 これを日記に書くにあたって、とっくに一日分のページじゃ足りない。
 男が馬車の扉を開いた。車内に、もう一人、誰かがいる。



「トレバー。耳をふさいどけ」
 耳をつんざく爆音と、目を焼くような閃光と、顔面に突きつける熱風があった。
 男の巨体が指で弾いた小石のように軽く吹っ飛び、今しがた出てきた工房の入口の扉を突き破って暗闇の中に消えた。
 私は実際に痛みをともなう強烈な耳鳴りに苦しみながらも、まずは猿轡を外して口の中の石を吐き出し、首に巻かれた縄をほどいた。ありとあらゆる不快感をこらえながら、なんとか顔を上げると、そこには硝煙を引く鉄筒を担いで颯爽と馬車から降り立つ、一人の若者の姿があった。
「耳をふさげと言っただろう、トレバー」
「ベイン! なんだ、聞こえない! なにか言ったか?!」
「大声を出すな。耳が馬鹿になっちまったな」
「いったいなにが起こったんだ! それはなんだ?!」
「新型の手持ち大砲だ。知り合いに頼んで譲ってもらった。真ん中の弟は、こういうのが好きでね。目の前で撃って見せると喜ぶんだ。お前を驚かせてやろうと持ってきたんだが、まさか実際に撃つはめになるとはな」
 耳鳴りはまだ続いていたが、混乱は収まってきていた。耳鳴りの向こうにベインの声がかすかに聞こえる。
「そんなものを人に向けて撃つなんて、どうかしてる。あいつは間違いなく死んだ」
「ああ。人ならな」
 ベインは手持ち砲を地面の放り出すと、御者席のランタンを手に持ち、ずかずかと男が吹き飛んで行った工房の入口の方に歩いていく。



「ベイン……。死体を見るのはお勧めしない。きっと見るも無残なことになってる」
「事実は想像とは異なる場合がある」
 ベインがランタンを掲げ、室内に光を投げかけた。
 私は思わず目を疑った。
 砕けた扉の破片が散らかっており、黒いローブの男が仰向けに横たわっていた。胸には子供の拳大の砲弾が深々とめり込んでいるが、やつは、まだかすかに動いていた。手袋をした指の先が、動いている。血も出てなければ内臓が飛びだしているのでもない。
 まるで影のようだと思った男の顔には、実際に目も鼻も口もなかった。ただの黒い石の塊だったのだ。今は無数のひび割れが走り、薄闇の中では、それがどことなく人の顔のように見えて不気味だった。
「ゴーレムだ」
 ベインは懐からノミのような道具を取り出すと、黒いローブをたくし上げ、石の体に刻み込まれた四つの古代文字の、一番右端の一つを削り取って消した。
「汝が真の理に従え」
 それで、そのゴーレムは針で刺されたように全身を硬直させると、糸の切れた人形さながら動かなくなった。もはや、これは、ただの黒い石の寄せ集めになったのだ。



 私は硬い唾を飲み、震える声でベインに言った。
「ベイン。こいつは、なにか私に聞きたいことがあるようだった。おそらく、私が忘れてしまった過去にまつわる問題だ」
「そうか。この旧友とは縁を切った方がいいかも知れないな」
 ベインは、それを聞いても平然とした様子で馬車に取って返し、二頭の馬を馬車から切り離す作業にかかった。馬車に積まれていた鞍を馬の背に乗せている。
「アウルゲルミルと言っていた。今はなにも思い出せないが、それは、なにかとても重要なことなのかも知れない」
「トレバー」
 ベインは馬の手綱を私の手に握らせると、噛んで含めるように言った。
「帝都を離れる。お前は狙われていて、遠くへ逃げる必要がある」
「しかし」
 私は言葉に詰まった。わけもわからず、別れなければならないのだろうか。この友と。今すぐに?
 よほど悲愴な顔をしていたのだろう。ベインはふっと笑いかけ、私の肩を強く叩いた。
「旅の予定が早まったのさ。一緒に旅をすると言っただろう」



「君も一緒に来るというのか? だが、君も危険にさらされる」
「お前ひとりなら死ぬだけかも知れないが、二人ならこうして撃退できるかも知れない。それに、目的のない旅に刺激を与えてくれる少々の危険は歓迎できるというものだ」
「ベイン。君というやつは」
 私は呆れながらも、救われていた。ここで一人で放り出されていたら、きっと途方に暮れて、それほど時もかからず、どこかで野垂れ死んでいただろう。
「さあ、荷造りしてこい、ハードヘッド」
 ベインは私の背中を強く叩いて急かした。私は彼を横目で睨んだ。
 私は自分の部屋から、この旅に持っていく物を選別する。と言っても、記憶を失くして、身一つでベインに拾われた私に、それほど私物があるわけでもない。
 私は机の上の日記と、書きかけのページの上に放り出されたペンを手に取る。
 そしてひとこと書き加えると、懐に入れてベインのところに向かった。


 ――ベインには感謝している。ただ、私のことを石頭(ハードヘッド)と呼ぶのは、正直、やめてもらいたい。
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コメント

お疲れ様です。
やや、これは本編の閑話ですか?
体験版でも思いましたが、テンポがいい文章ですし、キャラが立ってますよね。
うらやましいです。
続きが気になって仕方がない。
定期的にこちらにアップされるのでしょうか?
あと、石斧で頭叩かれて記憶が飛んだだけですむなら、やめてくれといわれても石頭しかないですよね(^^)

  • 2012/09/09(日) 22:13:45 |
  • URL |
  • Talk竹 #/tFE2JW.
  • [ 編集 ]

毎度コメントありがとうございます。はよーです。
読んで下さる方がいらっしゃるのは励みになりますね。ハゲ味。
定期更新……いい響きです。はよーは憧憬の念を禁じ得ません。
憧れの自分を現実のものとするため、はよーは努力していく所存。
乞う御期待。

  • 2012/09/11(火) 18:54:52 |
  • URL |
  • はよー #-
  • [ 編集 ]

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